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大阪高等裁判所 平成7年(ラ)536号 決定

抗告人

田端清

代理人弁護士

野間督司

近藤正昭

林一弘

長谷川敬一

松本裕美

相手方

千葉隆子

島津悦子

両名代理人弁護士

横清貴

主文

原決定中主文第一項を取り消す。

相手方らの執行異議の申立て中、原決定別紙物件目録記載一の土地に関する部分を却下する。

その余の本件抗告を却下する。

手続費用は、原審、当審とも二分の一を相手方らの負担、その余を抗告人の負担とする。

理由

一  抗告理由二の1について

相手方らの執行異議申立ての趣旨及び理由並びに本件の事実関係は、原決定の理由の一及び二1で示されているとおりである。

上記抗告理由は、根抵当権の譲渡が本件仮処分で禁止された処分に当たらないと述べており、本件土地(原決定別紙物件目録記載一の土地)に関する原決定の判断の誤りを主張しているので、以下、本件土地に関する原決定の判断の当否について検討を加えることとする。

本件処分禁止仮処分は、本案確定判決の請求の趣旨からすると、本件土地建物の所有権移転登記請求権を被保全権利とし、債務者を所有名義人とするものであって、それ以外の権利を被保全権利としているものであることをうかがわせる資料はない。この処分禁止仮処分は不動産登記法一条所定の処分の制限に該当するものとして登記されるものであり、その処分制限を第三者に対抗する趣旨に出るものであって、係争不動産の譲渡等で登記名義人が変更することによって本案訴訟の追行が無意味なものとならないよう、係争不動産の登記名義人を固定した上、仮処分の債権者が本案訴訟で勝訴した場合などにおける登記請求権の実現を保全するためにされるものである。

他方、根抵当権の譲渡についての処分とは、根抵当権者のする根抵当権の譲渡行為がこれに該当するものであり、上記の処分禁止仮処分に優先してされた根抵当権の移転についてする、民法三九八条の一二第一項所定の根抵当権設定者の承諾はここにいう処分に該当せず、処分禁止仮処分で禁止される処分にも該当するものではないと解するのが相当である。けだし、根抵当権設定者の承諾については、第三者に対する関係での対抗問題は生じないのであり、処分禁止仮処分債権者が本案判決で仮処分債務者である所有名義人に対する勝訴判決を得た場合には、当該処分禁止仮処分に優先する根抵当権が譲渡されたことによる根抵当権設定登記の移転登記がされていても、仮処分債権者が勝訴判決に基づく所有権移転登記を申請するのに障害となるものではないからである。すなわち、従前からの解釈を踏襲して規定された民事保全法五八条第一項は、不動産の登記請求権を保全するための処分禁止仮処分の効力として、仮処分登記の後にされた登記に係る権利の取得又は処分の制限は、被保全権利の登記請求権に係る登記をする場合に、その登記に係る権利の取得又は消滅と抵触する限度において、その債権者に対抗することができないとしているが、処分禁止の仮処分登記に優先する根抵当権の移転の登記は、同条項所定の「登記に係る権利の取得又は消滅と抵触する」ものではない。

したがって、根抵当権譲渡につき所有名義人がした本件処分禁止仮処分後の承諾が同仮処分に抵触するものであることを前提とする相手方ら(異議申立人ら)の執行異議事由をもってしては、本件執行を取り消すことはできないというべきである。

二  結論

よって、その余の抗告理由について判断するまでもなく、本件土地に関する相手方らの執行異議は理由がなく却下されるべきである。これを認容すべきものとした原決定部分は相当でないので取り消した上、また、本件建物(原決定別紙物件目録記載二の建物)については抗告理由の提出がないので、不適法なものと認めた上、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 上野茂 裁判官 竹原俊一 裁判官 塩月秀平)

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